ウルトラ拡大解釈で安保法制を実働化 海上自衛隊中東派兵の問題性(新聞テオリア第89号・2020年2月10日)

新聞テオリア第89号・2020年2月10日
ウルトラ拡大解釈で安保法制を実働化
海上自衛隊中東派兵の問題性

池田五律(戦争に協力しない!させない!練馬アクション)


「調査・研究」で重武装派兵

2019年12月27日、安倍政権は、海上自衛隊を中東に派兵することを閣議決定した。航行する船舶の安全確保に向けた情報収集活動を目的とする防衛省設置法に基づく「調査・研究」だとしている。
派兵されるのは、護衛艦と哨戒機で、隊員約260名。約5億円が予備費から支出され、2020年度予算には約47億円が計上されている。活動範囲は、オマーン湾、アラビア海北部、バベルマンデブ海峡東側の3海域の公海上。活動期間は、27日から20年12月26日までの一年間。活動拠点は、ソマリア沖海賊対処を理由に自衛隊が巨大基地を建設しているジプチ。米軍に基地使用を認めているオマーンの基地も使用すると思われる。既に、海賊対処で、自衛隊はオマーンの二つの港を使用。今回も、サラーサ港での補給が想定される。UAEのフジャイラ港も候補にあがっている。中東派兵の常態化をみすえているとの見方もできるだろう。
閣議決定を受けて、2020年1月10日、河野防衛大臣は、海上自衛隊の護衛艦「たかなみ」とP3C哨戒機2機を中東海域に派兵する命令を出した。早速、翌11日、P3C2機が、海上自衛隊那覇航空基地からジプチに向け出発。第一陣は、クルーや整備員など60人。20日から活動を開始する。P3Cは、対潜哨戒機。ロッキードが開発し、川崎重工が海自向けにライセンス生産(98機)。
護衛艦「たかなみ」は、2月2日に出発し、2月末から活動を開始する。「たかなみ」は、4650トン、乗員約175人、高性能機関砲、速射砲、対潜水艦ミサイル、魚雷、対艦誘導弾、哨戒ヘリなどを装備している。「調査・研究」という言葉からかけ離れた重装備だ。それだけ、危険を承知しての派兵ということだ。
しかし、防衛省設置法に基づく「調査・研究」では武器使用ができない。そこで政府は、船舶防護の際には武器使用ができる海上警備行動に変更することも検討し、1月9日に行われた図上演習でも、海上警備行動を想定し指揮官の状況判断や部隊運用、情報伝達を確認している。国会承認を必要としない「調査・研究」での派兵を行い、状況が変わったからと武器使用もしてしまおうというわけだ。そもそも所掌事務を定めた防衛省設置法を根拠に海外派兵を行うこと自体、同法のウルトラ拡大解釈だ。
地理的範囲の限定もなく、しかも海上警備行動に移行することを想定するのは、「専守防衛」をも逸脱している。安保法制整備で可能になったと政府は言うだろう。その点で言えば、今回の派兵は、実質改憲に踏み込む安保法制の実働化だ。

有志連合と一体の派兵

この派兵のキッカケは、アメリカによる2019年7月にホルムズ海峡での「海洋安全保障有志連合」構想の提唱と、日本に対するそれへの参加要請である。この提唱と要請は、19年5月のサウジアラビア、ノルウェー、UAEの4隻のタンカーに対する破壊工作や7月の日本の会社が運航するタンカーに対する攻撃を受けてなされた。
アメリカは、それらをイランによるものとし、「有志連合」でイランに対する武力による威嚇を強めようとしたわけだ。それに対して、日本政府は、対イラン関係を考慮し、「有志連合」と一線を画した独自派兵の形を取った。
しかし、オマーン湾はホルムズ海峡の出口に位置し、イラン南部海岸の沿岸に当たる。2019年10月にバーレーンで行われたアメリカ主催の多国籍掃海訓練にも自衛隊は参加している。バーレーンの米海軍司令部に、情報交換を理由に海自要員を派遣する。さらに、日本政府は、有志連合に加え、独仏とも情報保護協定に基づき機密情報の交換を検討している。こうしたことからすれば、「有志連合」と一体と見られて当然だ。
その上、アメリカとイランの対立はますます激化している。2019年9月、サウジアラビアの石油施設が攻撃を受け、イランの支援を受けていると言われるイエメンのフーシ派が犯行声明を出した。
10月、紅海でイランタンカーが攻撃を受ける。
12月から、さらに状況はエスカレート。27日にはイラクのキルクークの米軍施設が攻撃を受ける。
29日、米軍がイラクの親イラン勢力であるカタイエブ・ヒズボッラーのイラクとシリアの5拠点を攻撃。
31日、デモ隊がイラクの米バクダード大使館を襲撃。それを受け、トランプ政権は米軍増派を決定。

泥縄的戦地派兵への道

2020年1月3日、米軍がイラン革命防衛隊のソレイマーニーとイラク人民動員部隊副司令官でカタイエブ・ヒズボッラーの幹部であるムハンディズを殺害。8日、イランがイラクにある米軍基地に弾道ミサイル攻撃。その際、ウクライナの民間機を誤って撃墜。派兵決定閣議と期日を合わせたかのようなこの急展開を踏まえ、安倍政権は、派兵方針を撤回すべきである。実質的な多国籍軍参戦にもなりかねない自衛隊員が殺し殺される「戦地派兵」に泥縄的に向かっていく道を改めるのは、今だ。
とはいえ、アメリカとイランの国家間戦争の確率は低い。国土面積も広く人口も多いイランに地上部隊を突っ込ませるようなことは、米軍にも多大な犠牲が想定されるし、イラクのように占領することも不可能だ。
イラン側は、もとより、2015年にオバマ政権時代に締結した核合意からトランプ政権が2018年に離脱して喧嘩を売られた立場であり、それ以降の制裁が解除され、核合意段階に戻ることを求めているだけで、アメリカと戦争したいとは思っていない。米大統領選でトランプが退陣して核合意段階に戻ることへの期待を含め、抑制的な対応をするだろう。また、イランと敵対してきたサウジアラビアも含め、湾岸諸国も戦争回避が本音だ。
ただし、偶発戦争の危険性はある。アメリカは「テロとの戦い」から抜け出せないどころか、中東から撤退したくない米中央軍の暴走も危惧される。イラン革命以来、イスラム体制はアメリカにとって不倶戴天の敵で、オバマ政権の核合意が逸脱だとの見方もできる。次期米政権が、トランプ政権以上に強硬になることもあり得る。とはいえ、イランとアメリカの主な応酬の舞台は、イラクなど周辺諸国になるだろう。これからも、米軍施設への攻撃、アメリカの報復攻撃の応酬が続くと思われる。その米軍への攻撃主体もイラク革命防衛隊ではなく、各国の親イランの武装勢力になるのではないだろうか。
応酬の手段は、デモといった形にもなろう。イラクでも、レバノンでも、親イラン勢力に対する民衆デモが起きている(2019年10月から11月)。
アメリカは、イラン国内での制裁への反発がハメイニ体制への批判に向かうことを促すだろう。現に2019年11月には、ガソリン値上げを契機に騒乱が起きている。ウクライナ機撃墜についても、ハメイニ体制および革命防衛隊を批判する声もあがっている。だが、イラン国内での体制崩壊を予測するのは性急だ。イランの多数を占める貧困保守層のイスラム体制および革命防衛隊への支持は、強固だと言われる。スッキリしない国内状態が続き、対外的関係も緊張と緊張緩和が続くと、想定すべきではないだろうか。

「インド太平洋戦略」実働化の派兵

イラクでは米軍の撤退を求める声が高まっている。それは、親イラン勢力だけの声ではない。こうした中、湾岸戦争以来、アフガニスタン戦争、イラク戦争以来の反米感情、そしてトランプ政権のイスラエル一辺倒の中東政策全般への反発から、いかなる勢力がどのような反米活動を行うか、予想できない。
その矛先が、自衛隊に向かうことも十分に考えられる。「対テロ戦争」以来、日本がアメリカと一体であることは、広く知られている。「日本は中立的な仲介者になれる」などというのは、お目でたい自己幻想でしかない。国王の死去に伴い、オマーンが不安定化するリスクも出てきた。停泊する海自艦船に対する攻撃も、あり得なくない。
このようなリスクがあるにもかかわらず、中東派兵を行う背景には、南西諸島、東南アジア海域、さらにはインド洋で、中国をけん制するという「インド太平洋戦略」がある。今回の派兵は、その実働化なのだ。こうした自衛隊のグローバルな展開の拠点と位置づけられているのが、南西諸島である。現に、P3C部隊は、那覇基地から出撃した。海外派兵は、その拠点である南西諸島の要塞化と表裏一体である。そして空母保有など、さらに海外展開力を高める軍拡が進められている。海外派兵と軍拡を一体のものとして批判していかねばならない。