座標塾トランプ政権の再登場で世界経済はどうなるか(金子文夫講演)開講
トランプ政権の再登場で世界経済はどうなるか
5月16日、座標塾第2回「トランプ政権の再登場で世界経済はどうなるか」が行いました。講師は金子文夫さん(横浜市大名誉教授)。
金子さんは「トランプ政権の全体像把握は難しい。しばしば変更される政策、根拠のない発言がある。戦術的にはトランプ流の理念なき場当たり主義。戦略的には内部に思想の分岐(改革保守、米国第一主義、テックリバタリアン)がある。」
「第1の問い、第2次トランプ政権の性格をどうみるか? 米国第一主義、帝国志向のファシズム型政権といえる。そのイデオロギーは米国第一主義イデオロギー。反グローバリズム、反リベラリズム。ファシズム型国内政策として、政府機関解体、反DEI、反知性主義が進む。研究者の国外流出。米国の科学技術覇権の後退が起こる。外国人排斥策の拡大、減税、規制緩和、脱炭素政策の転換が進められている。
対外政策は帝国主義的領有権・資源志向など自国中心の大国主義。パナマ運河、グリーンランドなど、中国対抗での領有権志向。カナダ、ガザ、ウクライナなど領有志向、資源志向がある。ロシア寄りのウクライナ停戦工作でクリミアのロシア領編入を容認する。
国際機関・協定から脱退・離脱する一方で、世界的な軍事力再編、NATOの再編、インド太平洋における中国封じ込め網の再編、日韓比豪等の軍備拡張要請を行う」
「第2の問い。トランプ関税は世界経済をどう変動させるか? WTO体制を解体・再編しスタグフレーションになる。
トランプ関税は世界に衝撃を与えたが、関税発動の経過を見ると、方針が錯綜した。
国別関税は米中協議、両国とも115%引き下げ、別にそれぞれ24%を90日間停止で合意をした(5月12日)。分野別関税も、自動車・部品関税の軽減措置(2年間)が発表された。
準備不足のままスタートしたため、朝令暮改、適用猶予・除外品目の続出、相互関税税率の不備などの混乱を引き起こす。結局、トリプル安からの金融危機勃発の恐れから関税政策を方向転換した。
トランプ関税の米国経済への影響は、高率関税により米国への輸入が激減、インフレと景気悪化(スタグフレーション)となる。
世界経済への影響については予測困難だが。貿易減少で、IMF2025年成長率予測は世界0.5%減に修正された。
トランプ関税の目的は①貿易赤字の縮小②製造業の米国回帰、雇用の拡大③関税収入の獲得、減税政策の財源④2国間取引による諸課題の解決。成果は交渉結果次第だが、米国は輸入物資の不足、物価上昇への懸念から妥結を急ぎ、成果を誇示する一方、実績は全体として不十分になるのではないか。
帰結として世界経済は再編され、WTO体制の解体、EUを軸とした地域FTAネットワーク接合の動きが進む。世界経済を主導してきた米国への信認が揺らぐ。基軸通貨ドルの信認低下、国際通貨体制は不安定化する」
「第3の問い。世界の覇権構造はどう変化するか? 米中2極構造から多極化へ向かう。
米中貿易戦争となっているが、貿易断絶となる超高率の関税合戦は持続不可能であり、交渉、妥協点を探ることになる。
米中のハイテク覇権争いは第1次トランプ政権、バイデン政権と続いてきた。米国は中国の急速な技術革新が米国の技術覇権、軍事覇権を脅かすことを懸念。貿易・投資規制を強化してきた。中国のハイテクは躍進し米国の抑え込み策には限界があった。
米国中心の陣営では、ウクライナ戦争を契機に欧州とは亀裂。米国は負担肩代わりを要求している。アジアでは日韓豪比等との2国間条約体制を維持し、米日豪印などで中国包囲網の形成を図っている。中国中心の陣営には安保機構で上海協力機構。経済機構で一帯一路、BRICSがある。
現状は「新冷戦」といえるのか。米国は中国封じ込めを図るが、同調国は少数。米中間には対立面とともに貿易・投資の結合面がある。米中ともに陣営の結束力は不足。第三勢力の存在感が増す。米中の総合国力を比較すると、経済力・軍事力・科学技術力を含め、ソフトパワー、国際機関への影響力(出資割合)など、総合的に見て、なお米国は中国にかなりの差をつけている。
覇権国家交代の可能性はあるのか。米国は能力をなお維持しているが、長期的衰退過程にあり、意思は明らかに後退している。中国の能力と意思は上昇しているが、成長率鈍化、人口減少・高齢化、共産党体制(普遍的価値の欠落)など限界がある。
1極覇権国家体制の衰退。米中2極化(準覇権国家)を経て覇権国家不在=多極化の世界へ向かう。
今後のシナリオは4つ。A.米中が準覇権国として並立、安定した関係 B.米中が準覇権国として並立、不安定な関係 C.覇権国家なき多極世界、安定した関係 D.覇権国家なき多極世界、不安定な関係。
中国はAを追求した(新型大国関係)が、米国から拒否され、現状はB。その先はDの不安定な世界の到来が懸念される。
Cが実現するように、多国間主義によるグローバルガバナンス(国際公共財の協働供給)の強化が求められている」
議論では、トランプ政権の政策の矛盾をどう見るか。中間選挙に向けて政策は変わるのか。シナリオCのイメージとは。私たちがグローバリズムに戻れと言うわけにいかないが、何を対置するのかなど。
金子さんは、世界の構造が変わるので、次が民主党政権になってもトランプ以前の構造には戻らないと指摘。
次回=第3回は7月18日「フェミニズムの現在」(本山央子)です。
