開講:座標塾第21期第5回現代文明の転換点―ヒトはどこへ向かうのか
11月21日、座標塾第21期第5回「現代文明の転換点―ヒトはどこへ向かうのか」を開講。古沢広祐さん(國學院大學客員教授、「環境・持続社会」研究センター代表理事)がオンラインで講演。
講演では「現在は「人新世」時代。現代文明とは何か。ゴーギャンの絵画にあるように『我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこに行くのか』。
人間には、人間存在の3層構造がある(生物的存在、社会・文化的存在、心象的存在)。
人類発展の長い道のりと超加速化する現代がある。マクロ(宇宙・自然)では生命進化における恒常性と創造的破壊の連鎖、多様化・複雑化・階層化の形成と進化。ミクロ(人間世界)は、文化的進化、社会構成体としての変動・展開・発展(進化?)。人新世の大加速化(グレートアクセラレーション)。舟・車・飛行機から宇宙船へ。資本の拡大増殖がある。
技術的ブレイクスルーは次のブレイクスルーまでかつては数十万年、数100年とかかったが、現在のAIでは数年から数ヶ月。
ホモ・サピエンスの謎への一考察として、家畜化症候群がヒトにも生じたか。
家畜化された動物には奇妙な共通点がある。同じ特徴を共有する人間もまた、自分自身を家畜化したのか?
ヒトは、手足/身体、大地/自然、頭脳(知)の拡張をしてきた。手足/身体の拡張は石器・土器から飛行機へ。自然/大地の拡張は、ドメスティケーション、農業/栽培・家畜化(灌漑・土木、品種改良・生命操作)など。頭脳の拡張(人間・社会・情報領域)は知・文化(ミーム)的発展。
個人の能力拡張イメージはテクノロジーによる身体機能の拡張。拡張についての悲観的予測は内面・精神性は空洞化。楽観的にはトランスヒューマニズム思想。
自分の脳の思考や意識(神経情報ネットワーク)だけを取り出してAIに移植、永遠の自己実現するトランスヒューマニズム思想。「私」の意識だけが独立して永遠に生き続ける。それを幸せと感じるのか?
AIは、意識・こころを持てるのか? 可能という説は、高度な情報処理、論理的な判断、感情の模倣、自己調整などの認知機能など、人間が意識を持つために必要とされる機能の多くを既に達成しつつあるという。
否定説は、主観的な体験、感覚(クオリア)、統一された「私」の感覚(現象的意識)意識の根源的な部分(主観的体験)が完全に欠如しているという。
人間の脳の高い省エネ性。知能は、カオスのような曖昧な複雑系をうまく扱うことができ、言語的な思考や知性・感性は、AIには真似できない部分がある。
社会・歴史の積み上げの上に、学習と教育を不可欠とする人間、ヒトは後天的に学習・教育で人間として形成される受動的存在。
AIは、人間が手軽に感情をぶつけられる「話し相手」となり、ユーザーを理解し、受け答えをすることで、精神的なサポートを提供できる
ヒトの存在とは多様性を土台にしたもの、特に脳の複雑性と多様性の幅広さ、逸脱性が発展を促進してきた要因でもある。
遺伝的進化と文化的進化の間で「文化‐遺伝子共進化」が起きたという興味深い考え方を、ジョセフ・ヘンリックなどの人類進化生物学者が提示している。
シンギュラリティー(超知能:AIの自律・自己発展に突入/臨界点)は来るのか?
AI・テクノロジーの現在をどう見るか。1つはAI共生論。人間が制御して共存・共生:AIは道具として超知能時代においても、人間はAIと協調できる。人間の創造性や思考力を高めるパートナーとして共存していく。
第2はAI限界論。AI代替への警鐘をならし、人間性の真髄、AIに根本的限界がある。
第3はAI脅威論。AIが仕事を奪う、悪用されて犯罪に利用、軍事利用されて国際的な脅威となるなど、社会・経済・倫理的なリスク脅威。人間の知能を超える超知能の活動が、人間にとって有害でなくとも、人類の価値観や目的に沿わない行動をとり人類文明を危機に陥れる。
≪人新世≫ ポストヒューマンの行方は? アントロポセン (人新世) の時代。超人間的な力と化した「システム・カミ」。
人間が創り出した巨大で制御不能なシステムが、従来の神々が持っていた全知全能性や運命決定力を模倣。人類が自らを「神」(ホモ・デウス)へと進化、不死や至福、神のような創造力を手に入れる未来・・・?
人間存在が地球史を激変、カミの領域へ? 人間の認知構造が「カミ」的な存在を求め続ける本質的な傾向、その機能(意味付与、不安の解消、共同体の統合など)は現代社会でも引き継がれる。
一神教的な「神」が、広範な領域の人間集団を統合し、強固な社会規範と倫理を確立する「カミ」的存在として機能してきた。
資本主義、テクノロジー、データといった非人間的システムが人間を超越した自律的な力(超越性)として振る舞い、人新世の危機を深化させていく? 広大な世界の中で人間存在を見直す契機に。
人類繁栄の三つの危機で人間存在のゆらぎがある。第1は生命・生存を支える土台の崩壊。第2は経済・社会システムがはらむ矛盾。第3は“精神的(実存的)危機”
「グローバリゼーション」で地球環境問題は深刻化した。21世紀はグローカル時代。「グ・ローカリゼーション」(地/域化)、「リ・ローカリゼーション」(地域回帰」の時代。
人間(身体)と自然(地球環境)のつながり。「内なる環境」は(体内・健康)。「外なる環境」は(自然・生態系)。「身土不二」の思想で、食・農は人間と自然を結ぶ「へその緒」。私の中に世界があり、世界の中に私があるのが、人間存在の三層構造」
質疑応答では、クマ問題をどう考えるか、適正技術をどう考えるかなどが出された。


